磁性体の磁化ダイナミクスの知見を得ることは,次世代の「超高速」スピントロニクスにおいて極めて重要である。MRAMでは強磁性薄膜の磁化の反転速度が読み書き速度を決定する。しかしその速度はスピン歳差運動によって律速され,高々数GHzである。一方,反強磁性体においては,副格子磁化の反転速度は強磁性体と比べて原理的にずっと速いが,反強磁性体はマクロな磁化が存在しないため,線形磁気Kerr効果等は用いることができず報告例は限られている。そこで,我々らは非線形光学を用いて反強磁性体の磁性を検出する方法を開発してきた。そして,その知見を活かし,反強磁性体NiOの磁化ダイナミクスをポンプ&プローブ法により調べた。その結果,
などを明らかにした。また反強磁性体Cr2O3においては,光照射によるdemagnetizationの速度は強磁性体よりも桁違いに速いことを確認した。これは,強磁性体のdemagnetizationが磁気異方性によってのみ支配されるのに対し,反強磁性体のそれは交換相互作用にも依存することによると解釈される。反強磁性体の磁化ダイナミクスはやや応用しにくいと考えられているが,交換バイアスや磁気抵抗等を介してマクロな物性を超高速に変調することが可能であり,超高速スピントロニクスの可能性をさらに広げるものと期待される。