通常、ホログラフィックメモリーでは、多重記録の観点から、厚い記録媒体を用いて体積型ホログラムを記録するのが一般的である。このような体積型ホログラムでは、ブラッグ条件と呼ばれる回折の条件が重要となり、ホログラムから回折光を得るためには、照射する読み出し光がそのホログラムとブラッグ条件を満足していなければならない。読み出し光として、記録に用いた光とまったく同じ波長・入射角度・ビーム広がり角をもつ光を用いた場合、ブラッグ条件は自動的に満足される。そのため体積型ホログラムの再生には、記録に用いた参照光をそのまま用いることがほとんどである。
一方でホログラムの再生では、しばしば記録時とは異なる波長でホログラムの再生を行いたいという要求がある。たとえば、フォトポリマーでは、記録と同じ波長で読み出し(再生)を行うと、読み出し光によっても光重合がすすむため、ダイナミックレンジを消費し、媒体に記録できる情報の容量が落ちてしまうことがある。またフォトリフラクティブ材料に代表される書き換え可能記録媒体においては、書き換えが可能であるがゆえに情報の再生時に、記録したホログラムが消えてしまうという大きな問題がある。そのため図1のように再生時に記録とは異なる長波長の光を用いるという方法が提案されている。これは、図1のように記録時には、記録媒体の感度波長域内の光を用いてホログラムの記録を行い、再生時には、ホログラムの記録がおこなわれない十分低いエネルギーの波長の光を用いることで、無駄なダイナミックレンジの消費や意図しないホログラムの書き換えを防ごうというものである。
しかし、記録と異なる波長で再生を行うことは簡単ではない。これは図2に示すように、画像を構成するすべての屈折率格子ベクトルとブラッグ条件を満足する入射角度が存在しないからである。すなわち、フーリエ変換ホログラムの場合は、記録した画像の一部しか再生されず、またフレネルホログラムやイメージホログラムの場合でも、画像の劣化がおこり、完全な画像情報を再生することができない。
そこでわれわれは、体積ホログラムを記録時とは異なる波長で再生する方法として広帯域光源を再生光源として用いる方法を提案している。この手法の特徴は、スーパールミネッセントダイオード(SLD)のような、空間コヒーレンスがよく、かつ広い発振スペクトル幅をもつ光を再生のための読み出し光として用いることにあり(図3)、これにより、図4のように画像を構成するすべての屈折率格子ベクトルが読み出し光のある波長とブラッグマッチし、記録した画像全体を再生することができる。
ホログラム記録媒体としてFe添加ニオブ酸リチウム結晶を用い、原理確認実験を行った。まず記録時は、Nd:YAGレーザーの2倍波である532nmの光を用い、再生は、発振波長786nmのシングルモード半導体レーザー(LD)と中心波長810nmスペクトル幅30nmのスーパールミネッセントダイオード(SLD)を用いた。図5にそれらの再生画像を示す。これらからわかるとおり、広いスペクトル幅をもったSLDでは画像全体を再生することができ、本手法の有効性を実証できた。