研究紹介

研究テーマフォトリフラクティブ効果


フォトリフラクティブ効果(Photorefractive effect)

フォトリフラクティブ(photorefractive : PR)効果とは、入射した光の空間的強度分布に応じて結晶内に屈折率変化が誘起される現象である。この効果は、1966年にベル研のAshkinらによってニオブ酸リチウム(LiNbO3 : LN)やタンタル酸リチウム(LiTaO3 : LT) などの電気光学結晶において初めて発見された。発見当初は結晶透過後のビーム波面を乱し、散乱などを生じさせることから、「光損傷(Optical damage)」と呼ばれ問題視されていた。その後Chenらによって体積型ホログラフィックメモリーへの応用が提案されると、その発現機構を明らかにして積極的に用いようとする研究が盛んになる。現在では、位相型体積ホログラム、位相共役波発生 、コヒーレント光増幅、光演算、光連想記録など、様々な応用が提案されている。



図1:バンド輸送モデル

PR効果を最もよく説明するモデルとして現在広く受け入れられているのはKukhtarevらによってまとめられた「バンド輸送モデル」である。このバンド輸送モデルでは、図1のように不純物や欠陥に由来した深いドナー準位(PR中心)から、光によって電子が伝導帯へと励起され空間的に移動して別のPR中心と再結合する電荷移動のプロセスが基本となっている。ここでは簡単のため、PR中心が1種類で、かつキャリアが電子のみの場合を考えており、浅いアクセプター準位は、ドナー準位から電子を受け取ってすべてイオン化していてPR効果には関与しないと仮定している。




図2:フォトリフラクティブ効果発現のメカニズム
I :光強度, n :キャリア密度, r :電荷密度分布,
Esc :空間電場, Dn :屈折率変化量, x :空間座標

それでは、図2によって光照射から屈折率変化までのプロセスを詳しく見てみよう。まず干渉縞のような空間的光強度分布 I をもつ光を結晶に照射すると、干渉縞の明部では多くの電子が伝導帯へと励起されるが、暗部では、ほとんど励起が起こらない。これにより伝導帯にはキャリア密度 n の濃度勾配が生じ、電子が明部から暗部へと拡散し、キャリア寿命程度の時間で別のイオン化したドナーと再結合する。この過程が繰り返されると、明部では実効的に励起される電子数が多いためイオン化ドナー密度が増加して正に帯電し、暗部では逆に再結合する電子数が多いためイオン化ドナー密度が減少して負に帯電する。つまり光強度分布に応じた電荷の分布 r が深いトラップ準位に形成される。この電荷分布は空間的に変調された静電場(空間電場) Esc を形成し、最終的にポッケルス効果などの電気光学効果を経て、結晶内部に屈折率変化 Dn が誘起される。 このような発現のプロセスを考えると、PR効果は「非局所的」な「蓄積型」の効果であるということができる。つまり、ある位置における屈折率変化量は、その場所の局所的な光強度で決まるのではなく、むしろキャリアの濃度勾配を生じさせる原因となった周囲との光強度の差、つまり光強度の変調度(干渉縞の可視度)で決まる。またある屈折率変化量を得るためには、ある一定量の電荷を空間的に移動しなければならないが、その移動の速さはキャリアの励起量を決める光強度に依存する。これは強い光を用いることによって、速くホログラム形成を行えることを意味するが、逆に弱い光でも徐々に電荷の移動が行われていって、最終的には高い光強度の場合と同じ屈折率変化を得ることができることを意味している。


まとめるとフォトリフラクティブ効果には、次のような特徴があるといえる。

また、フォトリフラクティブ効果を発現するための条件は、

である。これらの条件を満たせばフォトリフラクティブ効果は発現するので、これまで様々な材料でフォトリフラクティブ効果が観測されてきた。以下にこれらのフォトリフラクティブ材料の代表例と特徴を示す。

材料 感度波長帯域 屈折率変化量 応答速度 特徴 アプリケーション 代表例
強誘電体 可視〜紫外 大きい 遅い
(〜s)
格子の保持時間が長い ホログラフィックメモリー LiNbO3、BaTiO3
常誘電体 可視
(〜ms)
旋光能(シレナイト化合物)
電場印加で大きな屈折率変化
ホログラフィック干渉計 Bi12SiO20、Bi12TiO20
化合物半導体 可視〜近赤外 速い
(ms〜μs)
量子井戸構造で大きな屈折率変化 画像処理・光演算 GaAs、GaP、InP
有機ポリマー 大きい
(ms)
分子配向効果で大きな屈折率変化
高電場が必要
画像処理・光演算 PVK:DMNPAA:ECZ:TNF