偏光ホログラムとは通常のホログラムとは異なり,光の振幅や位相だけでなく偏光状態をも記録したホログラムのことである.そのため,偏光ホログラムを読み出した時に再生される光の偏光状態は記録した偏光と読出しに使った偏光に依存する.たとえば,図1のように信号光をs偏光,参照光をp偏光にして記録した偏光ホログラムをp偏光で読みだすと,再生される光はs偏光になっている.
偏光ホログラムがこのような特性を示す原因は記録材料にある.偏光ホログラムを記録する際に使われる材料は,照射される光の偏光状態に応じた誘電率の変化を示すような分子で構成されている.
従来,この偏光ホログラムの議論には,記録材料をJones行列として記述する理論が広く用いられていた.しかし、この理論では信号光と参照光の交差角が極めて小さいという近似が使われており,従来の理論では下記のようなメモリデバイスの実用化のための議論には不十分であると考えられた.そこで我々は近年,偏光ホログラムの新たな理論を提唱した.
この理論では記録露光による材料の誘電率変化を現象論的に記述しており,これにより任意の光学配置での偏光ホログラムの記録再生が容易に議論できるようになった.
図1:偏光ホログラムの記録再生
上記のように,偏光ホログラムには通常のホログラムに比べ,偏光状態を記録できるという特性がある.我々はその特性をホログラフィックメモリーに応用し偏光ホログラフィックメモリーを実現することを目的に研究を行っている.従来のホログラフィックメモリーは記録する2次元ページデータの各ピクセルに光のオンorオフで0or1をコードし,記録している.しかし,図2のように各ピクセルに偏光状態を情報としてコードして偏光ホログラムを記録・再生することで,各ピクセルでの多値記録が可能になり,従来のホログラフィックメモリーを凌ぐ記録容量が実現できると考えられる.
図2:偏光ホログラフィックメモリーの記録再生