ホログラフィックメモリーは、記録媒体の厚さ方向まで記録に用いる「3次元記録(体積記録)」と、2次元的に配列したデータを一括して記録・再生できる「並列処理性」によって、従来の平面ビット型記録方式では実現不可能な大容量記録(〜Tbit/cm3)と高転送レート(〜Gbps)が可能となる。 ホログラフィックメモリーは、通常、図1に示すように、記録光(信号光・参照光)の他に、2次元データを光波にのせるための空間光変調器(Spatial Light Modulator : SLM)と、光波を結像・フーリエ変換するためのレンズ、2次元データを受光するためのディテクターアレイなどで構成される。 記録時にはSLMで2次元データをのせた信号光と何も情報をもたない参照光とを記録媒体に入射する。このとき記録媒体内では、信号光と参照光の干渉縞に応じた回折格子が形成される(情報の記録)。データの再生は、記録に用いた参照光を用いて行う。参照光をホログラムに入射すると、形成された回折格子によって元の信号光波面と同じ波面を持った回折光(再生光)が生じ、元の2次元データを読み取ることが可能となる。 ホログラフィックメモリーの特徴は、結晶の同じ場所に重ねて異なるデータを書き込み、独立に再生できることにある。これは多重記録とよばれ、ブラッグ回折という厚いホログラム(体積ホログラム)に特有の現象を利用したものである。この他にも、高い冗長性や、連想メモリーなどの高度な情報処理が可能であることも大きな特徴である。
CD,DVDなどに代表されるビット記録方式では、個々のデータは、記録媒体の局所的な特性変化(相変化・磁区反転)として記録される。つまり1つのビットに対し、1つの記憶領域が対応している。それとは対照的に、ホログラフィック光メモリーでは、ある1つのビットは記録媒体の全領域に広がって記録されていると言うことができる。そのためホログラフィック光メモリーは、ビット型の記録方式と比べ、記録媒体の一部破損によるデータの損失が少ない。これは、情報が、信号光と参照光の2本の光波によって回折格子として結晶全体に記録されていて、再生光はその回折格子からの散乱光の干渉の結果として現れる(ブラッグ回折)ためである。 参照光を照射したとき、結晶全体に広がる回折格子で生じた散乱光がうまく同位相で重ね合わされるかどうかを決める条件をブラッグ条件とよぶ。一般的に、記録した時と同じ状態(波長・入射角度・波面)の参照光を再生時に照射すれば、ブラッグ条件は自動的に満たされて、信号光が回折してくる。しかしひとたび角度や波長を変えてしまうと、ブラッグ条件が満たされなくなり、信号光は回折(再生)されない。(図2・3)
このブラッグ回折の性質を利用することで、多数の情報を結晶の同じ部分に重ねて記録することができる(多重記録)。図3に示すように、一枚目のホログラムの回折光強度はもとの参照光の入射角からのずれに対し、ある程度のずれ量(DqB)で一度ゼロに落ちる。つまりこの角度(DqB)では一枚目のホログラムの情報はまったく回折してこないため、この角度(q0+DqB)で2枚目のホログラムを記録することで、1枚目とは独立に2枚目の情報を記録することができる。 以後、同様に m 枚目の画像を角度(q0+mDqB)で記録していけば、記録媒体の同じ領域に画像情報をm多重して記録することができる。(図4) これを角度多重記録と呼ぶ。参考までにこのDqBの大きさの例をあげておくと、波長532nmの光で、2光波のなす角が90°、厚さ1cmの結晶全体にホログラムを書いたとすると、DqB = 0.002°である。
ホログラフィックメモリーのデモンストレーションとして、角度多重記録方式を用いて約40枚の画像を多重記録した。記録媒体は、1cm角のフォトリフラクティブ結晶( Pr:LiNbO3結晶 )である。記録には波長532nmのNd:YAGレーザーの2倍波を用い、SLMには、デジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device:DMD)を用いた。各ページを記録するごとに結晶をのせてある回転ステージを0.015度回した。再生では、参照光のみを照射し、回転ステージを連続的に回すことで、記録したページが次々と再生され、動画(パラパラ漫画)のように観測される。