研究紹介

研究テーマホログラフィックメモリー書き換え可能ホログラム記録媒体


不揮発性フォトリフラクティブ結晶の研究


フォトリフラクティブ結晶を用いたホログラフィックメモリー

一般的にPR結晶をホログラフィックメモリーの記録媒体として用いると、現像不要な位相型体積ホログラムを低強度の光で記録することができ、またその記録したホログラムを何度でも書き換えることができる。これはPR効果の発現のプロセスが「PR中心の光イオン化」という可逆的な過程により起こっていることに由来しており、フォトポリマーが光重合という非可逆過程によって起こっていることとは対照的である。ところが、書き換えが可能であることに起因して、ホログラム再生時に過去に記録したホログラムが徐々に消えていく「再生劣化」という大きな問題がある。これは記録時に、信号光と参照光による干渉縞の強度分布に応じて形成された電荷分布が、再生時に参照光の一様な強度分布に合わせて再分布してしまうことに起因している。この再生劣化問題を解決する手法は古くから研究され、これまでに熱定着、電場定着、長波長の光による再生、2色書き込み法などいくつかの手法が提案されている。


図1:フォトリフラクティブ結晶における再生劣化


2色書き込み法による不揮発性ホログラムの記録

PR結晶において、再生時にホログラムが消えてしまうのは、読み出し光(参照光)により電子が励起され、形成した電荷分布が再分布してしまうからであった。したがって再生時に記録したホログラムを消去せずに再生を行うためには、何らかの方法によって記録光が電子を励起できる状態とできない状態を可逆的に切り替えられればよい。2色書き込み法ではそのような状態の切り替えを、光誘起吸収効果(フォトクロミック効果)を用いて行っている。  今、図2(a)に示すように初期状態で、結晶は記録光に対してほとんど吸収がないとする(不活性状態)。ここで吸収変化を誘起する光(以後この光をゲート光と呼ぶ)を結晶に照射し、図2(b)のように記録光波長における吸収を誘起する。すると、結晶は記録光を吸収して電子を励起できる、つまりホログラムを記録できる状態となる(活性状態)。ちなみにゲート光は、吸収を誘起して結晶を活性化させるだけなので、必ずしもコヒーレント光である必要はなく、ランプのようなインコヒーレント光でよい。ホログラム再生時には、ゲート光の照射をやめ、再び初期状態(不活性状態)に戻せば、参照光は吸収されず電子の励起は起こらないためホログラムは消えない。しかもこのホログラムは、再びゲート光を照射して活性状態にすることで消去することも可能であるから、書き換え可能である。実際の2色書き込み法は、図3のようなバンドギャップ内に2種類の異なる準位を持った結晶において行われることが多い。
 近年、我々はFe:Ru:LiNbO3において、読み出し後の消去率の少ない効率的な不揮発記録が可能であることを見出した。現在、この材料における基礎物性を測定し、記録機構の解明と効率の改善に取り組んでいる。


図2:光による活性状態と不活性状態の切り替え


図3:2準位モデルによる2色書き込み法

  1. R. Fujimura, T. Shimura, and K. Kuroda
    Two-color nonvolatile holographic recording and light-induced absorption in Ru and Fe codoped LiNbO3 crystals
    Opt. Mater. 31, 1194-1199 (2009)